黄金比の一般化としては、たとえば
貴金属比というのが知られている(
白銀比、
青銅比など)。でも、ここで考えたいのは、別の方向への拡張だ。
まず、おさらい。正5角形に対角線を引くと、2種類の二等辺三角形ができる。
各二等辺三角形を、拡大縮小。等辺の長さをぜんぶ1に揃えてみる。
このとき、底辺の長さに黄金数φ=
1.618…が登場する。左の三角形の底辺がφ、右の三角形の底辺が1/φ=φ-1である。正5角形を並べたり、対角線を分割したりすると、いろんなところにφに関係した長さが登場する。 黄金比の性質、さまざまな関係式については、
wikipediaを参照してほしい。
さて拡張。正多角形を考える。ここでは、正11角形を例として考えよう。対角線を引くと、たくさんの二等辺三角形ができる。次の5種類の二等辺三角形に注目する。
各二等辺三角形を、拡大縮小。等辺の長さを1に揃えてみる。
これらの三角形の底辺の長さを、左からそれぞれb
1~b
5とする。
このとき、次のような関係式が成り立つ。
(1) b1b2b3b4b5=1
(2) b1-b2+b3-b4+b5=1
(3) b1b2=b3+b1
(4) b2b3=b5+b1
(1)(2)は美しいが、(3)(4)はよく分からない。でも、掛け算が変な足し算になったりしていて面白い。端数が出てこずにb
1~b
5だけで書けるのも不思議だ。
乗積表(もどき)を作っておくと法則性が見えるかもしれない。
どう証明するか。1の22乗根を使うと上手く計算ができる。
なぜ突然1の22乗根が出てくるのか。正n角形と
1のn乗根には深い関係があって、z
n=1の根は
複素平面上で
単位円をn等分する。次の図を見ると、b
1~b
5が1の22乗根で表せそうな気がしてくる。
という訳で、z=e
(π/11)i=cos(π/11)+i sin(π/11)とおくと、b
1~b
5は次のように書ける。
b1=z-z10
b2=z2-z9
b3=z3-z8
b4=z4-z7
b5=z5-z6
これで準備が整った。
複素数の計算に慣れていないと分かりにくいかもしれないけれど、あとは、
z11=-1と
z10-z9+z8-z7+z6-z5+z4-z3+z2-z+1=0
に注意して計算すればよい。ひとつやってみると、こんな感じだ。
b1b2=(z-z10)(z2-z9)
=z3-z10-z12+z19
=z3-z10+z-z8
=(z3-z8)+(z-z10)
=b3+b1
ところで黄金比はどこへ行ったのか。じつは先ほどの(1)と(2)が黄金比の持っていた性質の自然な拡張になっている。正5角形にもどってみると、ふたつの底辺の掛け算φ(1/φ)=1に相当する性質が(1)で、ふたつの底辺の引き算φ-(1/φ)=φ-(φ-1)=1に相当する性質が(2)だ、というふうに見ることができる。また、φ11=b1とおくことにして先ほどの関係式を駆使すると、b2~b5をφ11で表すことができる。面倒なので書かないが、興味のある方は計算してみてほしい。この辺りも黄金数φに似た性質ということができるだろう。
最後に、ペンローズタイルの拡張との関係。最初の5種類の二等辺三角形。底辺のところに鏡を置くと、ひし形が5種類できる。
これをたとえばこんな風に並べることができる。
上手く並べると、きっとペンローズタイルの正11角形版ができる。しかし、まだその並べ方を見つけていない。並べ方の分析には、きっと辺の長さや面積の計算が必要だ。その計算には今回検討した、黄金比の拡張を使うことができる。
今回は触れなかったが、各二等辺三角形の面積についても綺麗な表示ができて、なかなか美しい関係式がある。これはまたの機会にまとめようと思う。
正7角形や正9角形でも、正11角形で議論したことの類似が成り立つ。nが合成数か素数かなどによっても、いろいろ様子が違ってくるみたいだが、拡張の基本はこんな感じで行けるのではないかと思う。