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幾何学模様のブログ みずすましの図工ノート

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この記事は 日曜数学 Advent Calendar 2016 の21日目の記事です。昨日、20日目の記事はキグロさんの「√2が無理数であることの別証明」でした。
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1 はじめに

早いもので、昨年の日曜数学 Advent Calendar2015から1年が経ってしまいました*1。この1年間わたしは何をやっていたのだろう。

相変わらず、数学イベントには色々と参加しています。今年度4月から9月までの半年で36件のイベントに参加しました。年間72件ペース。昨年度の年間45件という記録を塗り替える勢いのハイペースです。日曜数学会では何を発表したのだったか。2016年に入ってからで数えるとウィア=フェラン構造の話とか、板東さんの夢のタイル張り定理の話とか、十字手裏剣の求積問題とか、1種類のタイルによる敷き詰め模様の話とか、スターンの二原子数列を聴く話とか、そんな色々を話して歩いた1年でした。楽しかったなあ。

それと、今年の3月末からパズル懇話会の幹事を務めています。パズル懇話会は数理パズルの愛好者の集まりです。会員のみなさんは色々な数理パズルの研究をして楽しく交流しています。数理パズルとは何か。説明が難しいところですが、パズル懇話会は英語名がAcademy of Recreational Mathematics, Japan。つまり「数理パズル≒レクリエーションの数学」と思うことにすると誤解が少ないのではないかと思います。

今日はそんなパズル懇話会の活動の一端を紹介してみたいと思います。テーマは裁ち合わせパズルの問題。正方形と正方形を合わせて正方形を作る問題です。

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2 パズル懇話会でのひとこま

裁ち合わせパズルとは、ある図形をいくつかの部分に分解して並べ替えることで(面積の等しい)別の図形を作るものです。詳しくはwikipediaをご覧ください。

2016年11月19日(土)パズル懇話会の例会で会長の小谷善行が次のような問題を紹介しました*2。

問題1 「正方形を合同な図形に4分割し、それをつないで、内部に正方形の穴がある大きい正方形を作る」次の4つのパターンがあると思う。これ以外見つからなかったが、あるだろうか。

解答例(数字は各正方形の辺の長さを表しています。左端の正方形が穴になります)

正方形+正方形=正方形の話_a0180787_2159912.png


どうなのだろう。あるのかな。ちょっと面白いなと思ったものの、そのまま忘れてしまいました。

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3 ハッカーズバーにて

2016年12月7日(水)六本木のハッカーズバーにパズル懇話会の面々が集まりました。このとき、先の問題が話題になりました。岩井さんはこんなアニメを作っていました。同じようなアニメを自分も昔作ったことがあったのを思い出しました。これがあの問題の解(4)になっているとは気づいていなかったのです。

会員の加藤さんがギザギザした解があるはずだと言いました。みんな半信半疑。でも、スマホで次のような図を見せてくれて、本当かもしれないと思いました。*3

正方形+正方形=正方形の話_a0180787_21593319.jpg


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4 自分で描いてみた

帰宅後、自分でも図を描いて確かめてみました。本当だ。ちゃんと成り立っている!

正方形+正方形=正方形の話_a0180787_22461227.png


どうしてこんなことができるんだろう。不思議だなあ。他にはできるのないかしら。整数比に限るなら、どの正方形も平方数個の単位正方形を含んでいる訳だから、a^2+b^2=c^2みたいな等式が成り立つな。ピタゴラス数だと上手く行くかもしれない。(a,b,c)=(7,24,25)で試してみよう。

(試行錯誤)あ、できた。

正方形+正方形=正方形の話_a0180787_22462924.png


できるんだ。面白い。

ピタゴラス数は一般に、互いに素なm, n(ただし0 < n < m,m - n は奇数)を使って、(a, b, c) = (m^2 - n^2, 2mn, m^2 + n^2)という風に書けるけれど、m-n=1のとき上手く行くみたいだ。なるほどなあ。

一見ややこしそうだけど、図解するとこんな感じです。

正方形+正方形=正方形の話_a0180787_22301795.png


気になる人は、ちゃんと上手く行っているか確かめてみてください。こちらは、ギザギザ解が可能な、正方形の組合せ一覧です。

正方形+正方形=正方形の話_a0180787_22302632.png


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5 許可を取る。調べる。

加藤さん、小谷さん。これ、わたしのブログで紹介してよいでしょうか。いいよ。ありがとうございます。

このとき加藤さんが新しいことを教えてくれました。この問題、小谷さんの出題で初めて知ったのではなく、1993年に解いていたそうなのです。それはCubism For Funという雑誌(通称CFF)の懸賞問題でした。CFFの31号"Holey Polygons"という記事でのAnton Hanegraafさんの出題。

問題2
(a) 次の(7)と(8)は5ピースで裁ち合わせできる。どうやればいいか。
(b) 特別な比率では5ピース未満の裁ち合わせを見つけることができるか?

正方形+正方形=正方形の話_a0180787_22303890.png


という訳で、加藤さんの解は、問題1と問題2(b)の題意をたまたま両方満たしていたわけですね。なお、ここでいう5ピースは(左の正方形を穴に見立てているので)灰色の部分の分割が何個になるかを言っています。また、小谷さんの問題と違って「各ピースが互いに合同であること」という制約はありません。

正三角形の問題(7)も気になりますね。

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6 そういえば、あの問題も。

なぜこの問題がこんなに気になったのか。じつはわたしが裁ち合わせの問題に取り組むのはこれが初めてではありません。むかしMINEさんとの共同研究でBoth Sides Nowというシリーズのパズルを発案したことがあったのです。別名、額縁ダイセクション。丸善『多角形百科』にわたしの書いた記事があります。

これがそうなのですが、今回の問題によく似ています。が、8ピース使っています。

正方形+正方形=正方形の話_a0180787_22304857.png


これらが最少のピース数かどうかはよく分からないのですが、相似比によって必要なピースの枚数が色々変るみたいで面白いなあと思います。とくに何の役に立つということもありませんが、色々調べたり遊んだりできて楽しかったです。パズル懇話会では日夜このようなやり取りが行われ、ときに白熱して、新しいパズルが生まれたりしています。

パズル懇話会にご興味のある方は、お気軽にお声かけください。例会へのゲスト参加が1回500円で可能です(ゲスト参加は2回までです)。

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予告:
日曜数学 Advent Calendar 2016 明日はcorollary2525さんの「長さ1の線分を一回転できる図形について」楽しみです!

*1 このブログのひとつ前の記事がその記事です。一年ぶりの更新となりました。

*2 小谷さんの許可を得て公開しています(パズル懇話会はクローズドな会です。会員のアイデア保護のため、発表者に無断で発表内容を公開することは禁止されています)。

*3 加藤さんの許可を得て公開しています。
# by j344 | 2016-12-21 23:09 | パズル

模様の分類の話



ご存知ない方に自己紹介。私は模様を愛する総務のおじさんです。パズル懇話会日本折紙学会の会員です。日曜数学会数学カフェに出没しています。今年、日本科学未来館で開催されたサイエンスアゴラでは 日曜数学100連発 に登壇し「幾何学模様の不思議な世界」と題して発表を行いました。

今日は模様の分類について書きます。美しい幾何学模様は眺めているだけで心が躍ります。世の中には模様の図鑑がいろいろあります。ただ、すこし不満なことがあります。多くの図鑑では歴史的・地理的な模様の分類が行われているのですが、模様そのものの持つ性質によって数学的に分類されていたら、もっと楽しいのにと私は思うのであります。

模様にはふた通りあります。周期的な模様(繰り返し模様)と、そうでない模様です。周期的な模様とは平行移動によって、自分自身と重ねることができるような模様のことをいいます。平面上の周期的な模様、いちばん普通の模様たちを分類するとどうなるでしょうか。
模様の分類の話_a0180787_06341435.png

周期的な模様

じつは対称性によって分類すると17種類になることが知られています。といっても、なかなかイメージがわかないと思いますので、この17種類、それぞれ1種類ずつ代表を並べてみます。
模様の分類の話_a0180787_05532446.png
パターン認識のためには豊富な例が必要です。過去の記事「模様展示の標準化 その4」「模様展示の標準化 その5」「模様展示の標準化 その7」「模様展示の標準化 その8」などで、この17種類の分類それぞれについて、たくさんの例を見ることができるので、ぜひご参照ください。

……といって例だけ見ていても、どこが違うのか分かりにくいと思いますので、分類の意味を解説しましょう。対称性による分類と書きましたが、対称性とは「ある変換に関して不変であるような性質」のことを言います。周期的な模様では「どんな合同変換に関して不変なのか」が分類の鍵になります。平面の合同変換は、平行移動、回転移動、鏡映の合成でできています。模様の分類では、じつは次の7種類の合同変換による対称性を考えれば充分です。
模様の分類の話_a0180787_05584094.png
この対称性のどれをどんな風に持っているかで、上記の分類は行われています。詳しい説明は、wikipediaに譲ることにしましょう。


周期的でない模様

一方、周期的でない模様(繰り返さない)には、ランダムなものや置換タイリングによるものがあります。
模様の分類の話_a0180787_06345615.png
ランダムな模様の例としては、たとえば、こんなのがあります。ドミノ(正方形をふたつくっつけてできる図形)によるタイリングですが、ところどころ向きの違うドミノをランダムに混ぜることができます。
模様の分類の話_a0180787_05220450.png
置換タイリング(Substitution tilings)については、Tilings Encyclopedia でたくさん例を見ることができます。このブログでも「ペンローズタイルの作り方」「レプタイル その1, その2」「Self-tiling tile setsについて」などで関連の記事を見ることができます。ここでは一例としてレプタイルである、L型トロミノによる置換タイリングを示します。
模様の分類の話_a0180787_05483898.gif
レプタイルという特殊な図形は、いくつかの自分自身と相似なタイルに分割できるので、分割を繰り返すとどんどん細分できます。これを拡大すると、上手くすれば平面全体のタイリングが作れます。


平面以外の模様

さて、ここまで平面だけを考えてきましたが、平面の枠を超えると、また違った世界が広がってきます。複雑な曲面(球面双曲平面その他)上の模様もありますし、3次元以上の世界で模様を考えることもできます。
模様の分類の話_a0180787_05130190.png
周期的な模様の対称性による分類。2次元では17種類でしたが、3次元では230種類になるそうです。過去の記事で模様のアニメーションを紹介していますが、これらは3次元の周期的な模様(空間2次元+時間1次元)と考えることができるので、いずれも230種類のどれかに分類されるのだと思います。
模様の分類の話_a0180787_06465051.gif
3次元の非周期的な模様も知られています。たとえば、佐藤郁郎さんのコラムを辿ると、色々な例を知ることができます。

さて。ここまでの話題だけでも、模様の世界の奥深さを垣間見ることができたのではないかと思います。知れば知るほど、いろいろな疑問が湧いてきます。曲面上の置換タイリングはないのかとか。4次元はどうなのか。気になったら、調べて自分で描いてみましょう。新しい分類方法を考えてみましょう。

そうこうしているうちに、新大陸発見のように、誰も見たことのない、新しい模様が見つかるかもしれません!


予告:
日曜数学 Advent Calendar 2015 明日は「matsumoring」さんの「今年の日曜数学活動」。楽しみです!

# by j344 | 2015-12-13 07:16 | 幾何学模様大図鑑
2015年7月29日にCasey Mannらによって発見された15番目の平面充填凸五角形(30年ぶりの新発見)について、以前ここで紹介した。このたび友人のニット作家、小倉美帆さんの力を借りて、これをモチーフにしたニット作品が完成したので、ご紹介したい。
新発見の平面充填凸五角形をニット作品に_a0180787_21170650.jpg
ジャーン。拡大すると、こんな感じである。正方形のパーツと正三角形のパーツが見える。
新発見の平面充填凸五角形をニット作品に_a0180787_21171648.jpg
じつは、小倉さんには、これまでもコラボ作品をいくつか作って頂いている。
新発見の平面充填凸五角形をニット作品に_a0180787_21175441.png
これらの図形シリーズは今月開催の作品展で見ることができるとのこと。ご興味ある方は、ぜひ!
新発見の平面充填凸五角形をニット作品に_a0180787_21101927.jpg

# by j344 | 2015-11-18 21:38 | 紹介

Self-tiling tile setsについて

標題のSelf-tiling tile setsはたとえば、こんなことができるピースのセットのことである。
Self-tiling tile setsについて_a0180787_23553891.png
オランダのLee Sallowsさんが2012年に命名した。

ピースが沢山あると、拡大操作を反復して非周期的な模様を作ることが出来る。たとえば、こんな感じになる。
Self-tiling tile setsについて_a0180787_23554675.png
今年、図形パズル研究所というチームで探索を行い、Lee Sallowsさんの発見分以外に21種類のSelf-tiling tile setsを発見した(私も3種類発見した)。このたび図形パズル研究所+秋山久義さんの許可を得て、パズル懇話会の会誌(こんわかい・NEWS Vol.37 No.4)より記事を転載する。詳細、次のリンクを参照頂きたい。

# by j344 | 2015-11-16 23:57 | パズル

ピタゴラスで正20面体

2歳の息子の誕生祝いに、知育玩具のピタゴラスを貰った。息子も遊ぶのだが父親(私)の方が熱中している。辺同士が磁石でくっつく板(正三角形・正方形・直角二等辺三角形・辺長2:2:1の二等辺三角形の板)が沢山あって、いろんな平面図形や立体を作ることができる。

正多面体の中では正4面体、立方体、正8面体が簡単に作れるのだが、正20面体は難しい。完全に組み上がるまで、形が決まらずふにゃふにゃと不安定だからだ。試行錯誤の末、その正20面体を上手に組む方法を見つけたので、この記事で紹介したい。

まず、正三角形の板だけで組もうとせずに、正方形の板5枚で作った台(右)を用意する。これに正三角形の板5枚で作った、へこんだ屋根(左)を乗せる。
ピタゴラスで正20面体_a0180787_08111263.jpg

こんな感じになる。写真だと分かりづらいが、中央は少しくぼんでいる。
ピタゴラスで正20面体_a0180787_08134269.jpg

これにギザギザと正三角形を乗せる。
ピタゴラスで正20面体_a0180787_08111311.jpg

その隙間に逆向きの三角形を乗せていく。
ピタゴラスで正20面体_a0180787_08111347.jpg

最後に上の屋根。もう少し。
ピタゴラスで正20面体_a0180787_08111382.jpg

これで、天井が閉じた。
ピタゴラスで正20面体_a0180787_08111315.jpg

台の正方形の板を1~2枚外して、手を入れる。
ピタゴラスで正20面体_a0180787_08111333.jpg
持ち上げて、正方形の板を1枚ずつ外していく。
ピタゴラスで正20面体_a0180787_08111340.jpg

完成!
ピタゴラスで正20面体_a0180787_08111306.jpg

一度できてしまえば、安定しているので、まあまあ崩れにくい。これで正20面体があなたの手に。ぜひトライを!

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2015年9月23日(水)13:10追記

指摘を受け確認したところ、正三角形の板は1セットに14枚(穴あきのものを含めると16枚)しかありませんでした。正20面体を作るには2セット必要です。これから購入される方は、ご注意ください。

# by j344 | 2015-09-23 08:31 | 多面体

幾何学模様について研究するブログです。幾何学模様大図鑑の制作を目指しています。


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